イリヤの空、UFOの夏6(最終話) 3/3

イリヤの空、UFOの夏6(最終話) 3/3




ま、途中はいろいろあれだったけどな
おまえは最後の最後に素晴らしい仕事をしたよ。
ありがとう・・・
そして、さようなら。
浅羽直之君。



ったくよぉ・・・
最後までしまらねぇ野郎だな。
てめぇは。

世界を滅ぼすんじゃなかったのかよ?



俺は・・・
俺は最後におまえに殺されるんなら・・・
それで良かったんだよ・・・






そして・・・
部長が帰ってきた。



思いだせん・・・
何も思い出せんぞ!!!






学校では6月から休んでいた
保健の黒部先生が復帰し
故障の多かった公衆電話が三台とも新しくなった。

そして、晶穂は・・・



あたしにだって知る権利はあるはずでしょ!






基地が縮小されると園原も
さびしくなりますね。



ただいま。



あ、お帰り。






浅羽直之様。

恥ずかしい話ですが
私は手紙という物を書いた経験が
ほとんどありません。

だけど、この手紙だけは
どうしても書かなくては
本当の事を書いておかなければと
思ったのです。

だから、封筒にも署名はしません。
なぜなら、私の本当の名前は
椎名真由美では無いからです。

私がロズウェル計画への参加を命じられたのは
去年の初めの事です。
その時点でのブラックマンタのパイロットは
伊里野加奈とエリカ・プラウドフットの二人しか
生き残っておらず
その二人の戦闘意欲の低下が深刻な問題になっていました。

彼女らをぎりぎりの所で戦いにつなぎとめていたのは
仲間を守るという一点だけだったようです。

その唯一の理由がついに失われてしまったのは
去年の8月の事でした。

エリカのブラックマンタの哨戒任務からの帰還途中
突如として暴走を始めたのです。

そして、加速し続けるエリカを止める事を出来るのは
一緒に出撃していた伊里野しか居ませんでした。

撃墜命令を受けた伊里野は
どんどん加速していくエリカを追いかけて
地球を4周もしていました。

その間の交信記録は残っていないし
残っていたとしても
私にはそれを聞く勇気はありません。

その後、伊里野は一種の自閉状態に陥り
一応回復を見たものの
大きな後遺症が残りました。

一つは記憶の欠落です。
伊里野の頭の中には
自分はあの日、出撃していなかったという
ストーリーが既に出来上がっていました。

もう一つは
伊里野がエリカの幽霊を目撃するようになったことです。

私たちにとって最優先の課題は
伊里野のモチベーションの回復でした。

伊里野に守るべき物を与えること。
それが私たちの仕事でした。

しかし、8月31日。
伊里野加奈は園原基地を脱走。
園原中学のプールで
あなたと遭遇しました。



おそーい。



それからの伊里野については
あなたのほうが詳しいかもしれません。



ちょっと、大丈夫?



私たちの活動は事情を知っているスタッフの間では
子犬作戦と呼ばれていました。
子犬とはもちろん、あなたの事です。
あなたを含めたこの世界全体の事です。



ねぇ、浅羽。



なに?



この前はごめん。
せっかく伊里野と仲良くなれたのに
いきなり居なくなっちゃって
浅羽が全部一人で抱え込んでいる風だから
ずるいって言うか・・・
寂しいって言うか・・・



あのさ・・・



いい、ほんと。
浅羽が話す気になってからで。
待つから、うん。






榎本を恨んでいますか?

けれど、今にして思えば
ただ一人、彼だけが
伊里野に子犬を与える事の正しさを
最後まで信じていたのではないでしょうか?

今なら私にも榎本の気持ちがわかります。
もちろん、全ては伊里野を最後の決戦に
出撃させるためでした。
それを否定するつもりはありません。






部長も遅い!



一体どこで何をしていたんですか?



何を怒っているんだ?
そんなに。



だって何時間待ったと思ってるんですか!






しかし、だからと言って
ブラックマンタのパイロットとして
生きてきた伊里野加奈は
最後の最後になって
その目で見、その耳で聞き
その肌で感じた物が
それを与えた動機の罪深さによって偽者になるとは
どうしても思えないのです。






ねぇ、部長。



何かね、浅羽特派員。
僕、考えたんですけど
ミステリーサークルの図案は・・・



ミステリーサークルの図案?
とは、何かね?



え?



今日はジョーク企画でミステリーサークル
作るんでしょ?

さよなら米軍、さよならフーファイター。
園原基地を見下ろすミステリーサークルの謎って
部長が言いだしっぺじゃないですか?



ミステリーサークル?
フーファイター?
遅れてるー!



僕はやりますよ。
一人でも。



やるとは?
ミステリーサークルを作るという意味かね?



はい。



一人でも、かね?



はい。



どうしてもかね?



はい。



好きにしたまえ。



はい。






浅羽が居るから。
加奈ちゃんにとっては
それで十分だったのだと信じています。






そして、僕は夏を終わらせる。